あきのえんそく






「かり」
「かりにいきたい!」


双子達は仲良く手を繋いでその場を去り、残された粋の頭の中には謎の言葉がグルグルと。
「かり・・・・・・?」
狩り?刈り?借り?
言葉を頭の中で変換すれども意味が分からず。
どうする、どうする?


「それは多分「紅葉狩り」の事だと思います」
金曜日の放課後。
閑静な住宅街の中にあるケーキの美味しいステキカフェにて。
謎の言葉の意味を理解すべく「おにいちゃん」に質問。
「あーー『かり』だねぇ」
ぽんっと手を叩いて納得。
近頃のお子様は難しい言葉を知ってるもんだと感心をする16歳。


「父と母が紅葉狩りに行く話をしていたもので。2人は小さいし車に酔うので山に行くのは無理ですから、お留守番って言われたのが面白くなかったんでしょう」
「そうなんだ。じゃあ、私が連れて行ってあげようかな。紅葉を観に行くんだったら公園でも出来るから、お弁当持って・・・あ、アイちゃんと紅くんも誘ってみよっと」
「アイちゃん」は粋が目に入れても痛くないほど可愛がっている妹。
「紅くん」は焔の叔父の息子・・・簡単に言えば従兄弟。
2人は運命の出会いをして、6歳と8歳にしてラブラブカップル(昭和言語)である。


「いつ行くつもりですか?」
「あんまり寒くなる前がいいよねぇ。早速になっちゃうけど明後日の日曜日はどうかな?雨も降らないみたいだし」
冷たいアールグレイを飲みながら当日のお弁当を考え始める粋。
お弁当は小っちゃいおにぎりを沢山作ろうっと。
甘い卵焼きと唐揚げは絶対必要だよね〜。
・・・等と既に頭の中には献立がフワフワし始めている。 どんだけお料理好きな娘さんなのか。

「え、えぇと・・・僕も一緒に行ってもいいですか?」
遠慮がちに、だが、聞いている側は絶対に『否』と言えないお願いの表情。
自分の持てる武器を最大限に利用する確信犯。
「もちろんだよ!遠足は皆で行った方が楽しいもんね」
「ありがとうございます。有希と望には僕の方から伝えておきます。時間とかを決めるのに後で連絡しますね」
目の前で天上の微笑みを湛えている美少年が心の中でガッツポーズをしているとは、純真な娘さんはまさか夢にも思うまい。




「にちようはグレくんとおでかけやくそくしちゃったの」
「そうなんだ・・・」
ラブラブカップルの日曜はデートか・・・と、ちょっぴり寂しい妹離れのできない姉。
「ごめんね、すいちゃん」
「ううん、気にしないでいいんだよ。紅くんとおでかけ楽しんできてね」
「うん!こんどはいっしょにおでかけしようね?」
「もちろんだよぉーーー!!」
おひさまのようにニッコリと笑う6歳児は、姉フィルターをかけなくても超破壊力を持つ可愛さであった・・・





「きちゃった★」
「・・・・・」
うふふっと笑って美少年の前に立つ風眞と、その背後で申し訳なさそうに合掌する創司。
「皆で行った方が楽しいからって粋ちゃんに誘われたのよ♪」
「そういう訳デス。何卒怒りを静めてクダサイ・・・」
「遠慮って言葉を知らないんですか、アナタ達」
綺麗な顔を僅かに引きつらせ抗議の言葉。


「グレンちゃんにアイちゃんとお出かけするようにお願いしたでしょ?」
うっ・・・と声を漏らす美少年。
「どうせ、ユウちゃんとノゾムちゃんと粋ちゃんで親子ごっこなんてマニアックなプレイでも考えてたんでしょう??」
咲き誇る白い百合のような鮮やかな中に氷のような冷たさを僅かに含んだ微笑みで一言。
「お姉さまに分からない事なんてないのよ、坊や」
「・・・・・」
「どーしたのー?早く行こうよぉー」
絶対零度の空間にそよぐ春の風。
「はいっ!」
裏表が綺麗に返り、粋の元へ急ぐ姿を見てやれやれ顔の年長者。
「・・・・・お子様ねぇ」
「何と言っていいものやら」



「おんなのこをまたせちゃおとことしてだめなのよ」
「おにいちゃんだめおとこになっちゃうよ」
「こらこら2人共、焔くんが困っちゃうでしょう?」
スピーカーで話す双子達。
有希は粋の右手を望は左手をしっかりと握り、 2人とも空いてる手には小さなバスケットを持っている。
「すいちゃん、こういうことはわかいうちからビシッといったほうがいいのよ」
「おかあさんがいってたんだよ」
「そ、そう・・・」
無邪気ほど恐ろしいものはない、と焔は強く思うのだった。


「おはようございます、お待たせしてすみません」
「おはよ、全然気にしなくていいよ。今日は晴れてよかったね!」
「おはよう、粋ちゃん」
「おはよっす、荷物持つからカバン貸しなさいな。お、今日は髪を上で結んでるのか」
風眞と創司が代わる代わるふわふわと揺れるポニーテールを手で弾く。
こりゃ面白そうだと双子達も背伸びをして参加。
もちろん変なプライドがある焔はその輪に入れず・・・
「遠足だから結んでみました。いつもと違うから変じゃない?」
「可愛いわよ〜♪」
「ぴょこぴょこ揺れて可愛いぞ」
「「かわいーの!!」」
「か、可愛いです・・・」
完全に出遅れてる彼に挽回のチャンスはあるのだろうか。





「綺麗ねぇ」
「すっごく鮮やかな色・・・」
「「きれー」」
春に白やピンクの花を咲かせていた桜の葉は橙色に。
夏に瑞々しい緑だった銀杏は黄色に。
そして、冬の訪れの前に燃え上がるように赤く染まった紅葉。
「最近は季節がはっきりしなくなってきたって言うけど、こういうのを見ると日本には四季があるんだなぁって実感するな」
「あら、結構いい事言うじゃない」
「そーちゃんあたまいいからね」
「そーちゃんあたまいいもんね」
何だかよく分からない所で大絶賛の創司。
ここでも出遅れてしまった焔は、はっとして粋を見た。


うるうるでキラキラの尊敬の眼差し。


それが自分以外の男に向けられているという事実に、焔のヒットポイントゲージは目の前の紅葉の如く真っ赤になった。
漫画的表現でいえば吐血モノである。
「どーしたの、おにいちゃん」
「おなかいたいの?」
一因は君達だよ・・・と言いたいがグッと我慢のおにいちゃん。
「大丈夫ですよ、さぁ、もう少し奥へ行ってみましょうか」
挽回、挽回、挽回・・・
最早紅葉狩り云々ではない変な必死さが滲み出ているのは如何なものか。


「着きましたよ、どうですか?」
池の周りに植えられた紅葉から零れ落ちた葉が池に浮かび広がって、そこはまるで1枚の日本画のような風景だった。
「すごーい・・・」
「近所の公園でこんなゲイジュツ的なモノを見られるとは・・・」
「まぁ、綺麗じゃない」
ふふん、とようやく余裕の出てきた美少年。
前日までにバッチリしてきた下調べがようやく花開いたってもの。


「ふりかけみたいー」
「おこのみやきのうえのやつー」
「「おべんとたべよー!!」」
「・・・・・」
もう、雰囲気ブチ壊し。





「はいっ、みんなの好みに合わせて色々な味を用意してみました。いっぱい食べてね」
「「おいしそー!!」」
「うふふ、粋ちゃんのお弁当はとーっても美味しいのよ」
「いただきまっす」
梅、こんぶ、鮭、たらこ、青菜、おかか、そぼろ、計7種類の味の小さめおにぎり。
ピーナツバター、ブルーベリーとクリームチーズのキャンディサンドイッチ。
ハムとチーズとタマゴのベーグルサンドイッチ。
定番の甘い卵焼きと鶏の唐揚げ。
お子様が大好きなタコさんカニさんウィンナー。


「はい、焔くん。卵焼きとおかかのおにぎり」
目の前に差し出された好物2品。
「疲れちゃった?ごはん食べて元気になってね」
「あ、ありがとうございます」
1番の元気の素は貴女ですよ〜という意味を込めた笑顔は、好物を渡され喜んでいるんだろうと大きく勘違いをされているとは夢にも思わず。
嗚呼、すれ違いのコイゴコロ。


「「おいしー!!」」
おにぎりをモグモグと食べる双子達の微笑ましい様を見て和んだ粋の目に入ったのは、落ち葉の入った小さなバスケット2つ。
そういえば2人は落ち葉を拾ってこの中に入れていたけれど・・・?と不思議に思い尋ねてみる。
「この落ち葉ってお土産?」
「「たべるの」」
「へ?」
「は?」
「え?」
「ん?」
予想外、想定外、電波の圏外。
あまりにぶっ飛んだ返答に固まる大きなお友達4人。


「みかんがりもぶどうがりも、かりしたらたべるでしょ」
「もみじもかりしたらたべるんでしょ?」
「・・・・えーと・・・」
早々にさじを投げ、暖かい紅茶で一息つく風眞。
この子供達に何と説明すればいいんですか、教えて創司先生!という目で創司を見つめる粋。
そんな粋の様子を見て更にヒットポイントゲージを減らす焔。
お約束の役回りに半笑いの創司。
もう、これってば何の集まりだったのやら。


「えーと、結論から言おう。紅葉狩りは食べない!!」
「「えー!!??」」
超がっかり声の2重奏。
「紅葉狩りの『狩り』は鑑賞するために木々を尋ね探すって意味。だから、見て歩くって事で紅葉狩りになるんだ」
「「わかんないよぉ」」
言葉には色々な意味があって、日本語は特に難しい。
・・・なんて事、小学1年生が納得できるわけもなく。
流石の創司先生もどう説明すりゃいいのか分からなくなってきたご様子。



「有希ちゃん、望くん、 創司くんが言いたかったのはね、きっと、紅葉が綺麗だなぁと思ったその気持ちを自分の中に持っておく事が 『狩り』になるってことなんじゃないかな?」
「「じぶんのなかに?」」
「そうだよ。みかんを狩って食べたら美味しいなぁって思うみたいに、紅葉を見て綺麗だなぁって思ったことを憶えておくの」
むーむー言いながら考える双子たち。
そして。
「「うん、わかった。そーちゃん、すいちゃんありがとう」」
「じゃあ、お弁当食べてもう少し紅葉狩りを楽しもうね」
「「うん!」」





「「ただいまー」」
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい、ん?」
小さな手に1枚ずつ握られた真っ赤な紅葉。
「おかあさんとおとうさんにおみやげなの」
「いちばんきれいなのえらんだよ」
「とっても綺麗。お父さんも喜ぶよ、ありがとう」
大好きなお母さんに頭を撫でられて気持ちよさそうに笑う双子達。
「おみやげにいちまいだけもみじをわけてもらおうねって」
「すいちゃんがいったんだよ」
「そうなんだ」
「粋さんが言ってくれなければ用途不明の落ち葉を籠2つ持って帰ってくるところでした・・・」
「そう・・・なんだ・・・」
あらゆる意味でこの家を救ってくれてる天使のようなお嬢ちゃんに心からの感謝を。


「たのしかったねー」
「たのしかったー」
「すいちゃんといっしょだとたのしいねー」
「すいちゃんずっといっしょにいてくれればいいのにー」
「すいちゃんがおにいちゃんのおよめさんになってくれたらいっしょにいられるよね」
「でもいまのおにいちゃんじゃだめだめだよね」
「まったくてがかかるおにいちゃん」
「ぼくたちががんばらないとね」


「・・・・・!!」
妙な寒気を感じるおにいちゃん。
双子達の頑張りが更なるネジれコジれを呼ぶ予感。
さて、次回は・・・?









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